代表取締役常務 谷口 智康さん
経営戦略局 人事部 兼 経営企画部 竹内 大樹さん
静岡新聞社・静岡放送の第二創業の幹になるのは「ミドルマネージャー」の変革。マネジメントコーチングで1on1の対話力を向上させ、現場の声から局と会社を超えた連携へ
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株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社は、1941年の設立以来「静岡県民の福祉に貢献し、国家社会の発展に寄与する」を社是に掲げ、静岡新聞、SBS TV、静岡放送SBSラジオなどの地域メディアを届けてきました。
同社は、メディア業界が変化する中で「第二創業」を宣言し、OKRや1on1など新しい組織改革を開始しました。その中で、ミドルマネージャーを会社の大事な幹として位置付け、マネジメントコーチ「mento for Business」をミドルマネージャー向けに導入しています。今回は、代表の谷口さん、人事の竹内さんに導入背景や成果についてお話を伺いました。
静岡新聞社・静岡放送の第二創業。ミドルマネージャーが会社の幹となり、新聞と放送を超えた連携へ
まずは、第二創業として変革を進めている背景について教えてください。
谷口さん:私たちの生業である新聞の部数やテレビの視聴率が減ってきている中で、大きな変革をしていかなければいけない時代だと考えています。今あるものを少しずつ変えるというより、ゼロからスタートする気持ちで変えていこうと思い、経営としてのメッセージ性を込めて「第二創業」として変革に取り組みはじめました。
創業の頃から掲げている「静岡県民の福祉に貢献し、国家社会の発展に寄与する」という社是を思い起こし、ユーザーファーストであり続けることを起点に会社の変革に挑み始めました。
変革によって、どんな組織になることを目指していますか?
谷口さん:社内の部署ごとの壁をどうやって超えられるかが大事だと思っています。そもそも新聞社と放送局が一緒にやっているのは、世界でも珍しい。アウトプットが違うとはいえ、情報を集めて県民の皆様に伝えるという意味では目的は同じです。16つある編集局や報道制作局などの部署の壁を超えて協力しあい、グループのメリットを活かして総合力を発揮すること。
新聞は新聞、放送は放送で十分やっていけた時代から変化しているのが今なので、垣根を超えて一緒に時代の変化に立ち向かっていけたらと思っています。
組織変革を進める上で、OKRや1on1を導入されましたね。
谷口さん:第二創業を宣言する手前で組織の分析をしたところ、「コミュニケーションが足りない」ことが課題としてあがってきました。例えば「自分の声が会社に通らない」「部長と1対1では月1回話すか話さないか」という社員の声もありました。
そこからまずはコミュニケーションを増やすことに重きを置いて、OKRと1on1を導入しました。今までは1on1も行っていなかったので、部長が部会でメッセージを伝えるくらい。「話し合い」の場ではなく「話した」だけになっていたんですよね。
OKRと1on1を導入することで、お互いにOKRの進捗がどうか?課題は何か?のような話を一人ひとりと話す機会が生まれました。そうやってコミュニケーション量が増えて、一人ひとりのやりたいことが吸い上げられることが、組織の変革に近づくと思っています。
竹内さん:第二創業を宣言した頃、経営陣と何度か合宿をして、弊社の成り立ちやこれからどうなっていきたいか、社員とどんなことを実現したいかを言語化していきました。そして、会社が掲げる理想やビジョンを発信することによって、社員からはどういう反応があるのか、社員としっかり対話をしたいという経営陣の想いを叶えるためにOKRの手法を取り入れました。経営陣がビジョンを示し、目標や達成状況を測りながらコミュニケーションを働かせることで、同じ方向にみんなで向かうことを誓いました。
KRの一つに「ミドルマネージャーの能力向上」を置かれています。なぜミドルマネージャーの支援に注力しているのですか?
谷口さん:会社が掲げた5つのKR(Key Results:主要な成果)のうちの一つですが、「ミドルマネージャーの能力向上」が一番大事だと考えています。経営陣の議論のなかで「ミドルマネージャーは会社にとって体幹だよね」と話していました。他の4つのKRを達成させるためにも、ミドルマネージャーがどうやってメンバーを育てるか?どんな言葉を発するか?でも大きく変わってくるでしょう。
竹内さん:課題感というよりも、ミドルマネージャーへの期待感が満場一致でしたね。マネージャーが起点になってコミュニケーションを活性化して、キャリア支援や評価のスキルも上げてほしい。ただ管理をするよりも、メンバーの育成や支援に重点を置いてほしいという考えが、役員の中で共通項になっていたと思います。
谷口さん:経営陣は全員ミドルマネージャーを経験してきていますよね。ミドルマネージャー時代の成功体験や苦労した経験があって、あの頃を乗り越えられたから今の立場にいる。ただその時に1on1の指導や社外からの支援があったらよかっただろうなと思うし、さらに時代が変わっている中でミドルマネージャーの変化や支援が求められていると思っているから、重点的に取り組もうと全員で決めました。
ミドルマネージャーの1on1の対話力向上と支援のためにコーチングを導入
今回、ミドルマネージャー向けにマネジメントコーチを導入されました。そのきっかけやどんな課題感があったかを教えてください。
竹内さん:ミドルマネージャーの能力向上を掲げる中で、ミドルマネージャーの方たちに理想のマネージャー像を描いてもらって人材要件を作ったり、360度サーベイやOKR・1on1の研修をしたりと負荷をかけてしまっていたんですよね。
日々の仕事だけでも忙しい中で、新しいマネジメントスキルの習得やメンバーを育てる責任も生まれていて、ミドルマネージャーにかかる負荷の大きさに課題を感じていました。そこで会社として彼らに伴走するような支援ができないかと思った時に見つけたのがコーチングです。mentoさんと話してこれしかないなと思って導入に向けて進めることにしました。
谷口さん:もう一つは、会社として1on1を導入し始めたけれども、ただ自分のメッセージを伝える場になっていたりと、1on1をうまくできている人は少数という状況でした。1on1の本当の意味合いを理解して、ミドルマネージャーの方々一人ひとりがメンバーと向き合うことができたら、きっとものすごく力を発揮するだろうなと思っていて。コーチングで傾聴してもらう体験をしたらガラッと変わるんじゃないかなと考えましたね。
実際に、トライアル的に希望者に対してコーチングを受けてもらったら「全然できていなかったことに気づいた」と話していて、コーチングを受ける機会を提供してよかったなと思いました。
単なる1on1の研修ではなく、実際にコーチングを受ける体験を提供したのはなぜですか?
竹内さん:ミドルマネージャーの方に自信を持って仕事に取り組んでほしいという気持ちがありました。僕からするとミドルマネージャーの方々は、高いスキルや魅力的な人柄を持った人がたくさんいて、いろいろな顔が浮かぶのですが、相対して話すと迷ったり悩んだり、不安の声を口にする人が結構いまして。純粋に、みんな自信を持っていいと、後押ししたいという気持ちでした。会社が期待するマネジメントの役割や求めるスキルが増えていく中で、自身の変化や成長を実感し、自分らしいマネジメントのやり方に気づくことで、このやり方が自分にあっているんだと、自分自身を肯定できるような状態になることが重要だと考えました。
パートナーとして、mentoを選んでいただいた理由を教えてください。
竹内さん:良いコーチがいることもそうですし、サポートいただくmentoのメンバーの方々もコーチングの知識や中身を深く知っているので、プロフェッショナルとして背中を預けられると思いました。コーチングにまつわる知識や、個人の行動変容に至るまでの考え方など色々な考え方をインプットいただく中で、mentoさんとなら僕らの会社でもそれらを学んで形にしていけるんじゃないかなと感じました。早い段階で、心理的にセーフティーな環境が築けたのも大きかったと思います。
8割が自分への成長期待が高まり、実際にミドルマネージャーの行動変化を実感
コーチングを導入されてから1年が経ちます。ミドルマネージャーがコーチングを受けることでの成果や変化があれば、教えてください。
竹内さん:定量的なところでいうと、コーチングを受けた方の8割が自分への成長期待のスコアが高くなりました。また、コーチングを他の人に推薦したいか?というNPSスコアは7割が推奨者(10点満点中9〜10点)と非常に高い数値が出ています。やはりミドルマネージャー自身がコーチングを求めていて、かつ自分に期待が持つことができることにつながっていることを嬉しく思っています。
また、定性的なところでいうと、全員が「行動変容につながった」と回答しています。一歩行動に移すことはすごく大変なことだと思うので、本当に驚いています。
谷口さん:私から見ても、みんなからあがってくるOKRのシートの充実度が変わりました。ミドルマネージャーとメンバーとの1on1の質が変わったからこそ、定量的な目標だけではなく、定性的な目標も言語化できるようになっているのでしょう。
また、私自身にミドルマネージャーの方から「コーチングでこういうことに気づいて、今はこんな心がけでやってます」とわざわざ言いにきてくれたこともありました。自分のなかで気づきがあって「ここは自信がなかったんですよ」と言えるようになったことも、とても大きな成長だと思っています。
担当役員との間でのコミュニケーションが生まれるのもすごくいいことだなと思いますね。受けた本人も、それによって変わっていくミドルマネージャーの部下も上司も気づきが多いです。アンケートや周りから聞いた話だと、1on1でも単に部下から文句を聞くのではなく、しっかりヒアリングして吸い上げて「それに対するどういうアクションをする?」という問いかけに変わっていると思います。
竹内さん:こういう積み重ねがチームや組織を変えていく一番の力になると思うので、さらにそういうミドルマネージャーの方が増えていくといいですね。実際に、コーチングを受けた方たちが自発的に「シェア会」というものを開いて、自分自身のマネジメントの気づきや学びを共有するような動きも生まれています。
コーチングで現場の声を聞いた部長が行動を起こすことで、会社が変わっていく
同じようにメディア業界の企業がコーチングを導入する場合の意義があれば、お伺いしたいです。
谷口さん:今はメディア業界全体として変革が求められる時だと思います。15年前は今あることをちゃんと回していけば安定していたけれど、今は答えがないなかでどうやって正解を探していくか。そういう時だからこそ、ミドルマネージャーが軸となって現場で働いている声をちゃんと吸い上げて、迅速に変化に対応していくようなスタイルが合っているんじゃないかなと思っています。
竹内さん:業界が厳しいからといって成果だけを求めると失敗すると思っています。なぜなら、人間関係がよくないと、新しい挑戦や斬新なアイデアが生まれず、失敗から学ぶことができないため、成果が上がらないからです。上司との関係性や会社への信頼があってこそ、いろいろな意見を出してもらえると思います。だからこそ、社内のコミュニケーションの量を増やしつつ、ミドルマネージャーが起点となってコミュニケーションの質を上げて、メンバーがネガティブな要因を恐れることなく、率直な対話ができる環境を作ること。それを組織に伝播させていくことができたらと思っています。
また別の観点だと、メディア業界は突発事案への対応などもあって、スケジュール管理がしにくく、自分に矢印を向ける時間を取ることが難しいと感じています。コーチングはコーチが一緒に向き合ってくれて、自分のことを振り返って整理できる時間になる。それが月2〜3回オンラインで時間取るだけならやってみようとなるんじゃないかなと思います。
今後のさらなる展望を教えてください。
竹内さん:コーチングを受けた方のストーリーを社内にも社外にも知ってもらいたいと思っています。会社で働く中での大変なことも楽しいこともご自分の中で言語化して答えを出している、そんなミドルマネージャーの方々の考えや想いを伝播させていけたらと思っています。
谷口さん:コーチングを受けたミドルマネージャーの方々がメンバーと1on1でよい対話ができるようになる。そうすると、そこでメンバーから吸い上げた課題やアイデアに対して、ミドルマネージャー自身がさらに成長して、様々な壁を超えて解決する行動をすることにつながってくると思います。
それが私たちが目指している局の垣根を超えて静岡新聞と静岡放送で総合力を発揮する組織となり、「静岡県民の福祉に貢献し、国家社会の発展に寄与する」という社是にもつながってくるでしょう。メンバーと一緒にチームとして成長していくために、リーダーシップが発揮される社員が増えていくと会社が強くなると期待しています。まさに会社の体幹であるミドルマネージャーの方々の活躍と成長を今後も支援していきます。