伊藤忠のグローバル人材育成――海外組織長のマネジメント力向上のため、360度フィードバックとコーチングを導入

‍海外駐在員が全社員の約20％と、社員の多くがグローバルで活躍している伊藤忠商事株式会社様。海外でのビジネスが多い同社では、グローバルで収益を上げられるような優秀人材の育成に力を入れています。

海外赴任前研修や赴任中の成長支援など、様々な施策を展開する中、2022年より海外組織長向けに360度サーベイとコーチングを導入。受講者の8割以上がパフォーマンス向上を実感しているという成果が出ています。今回、海外組織長向け360度サーベイ＆コーチング導入の背景や成果について、採用・人材マネジメント室 室長補佐の鈴木有佳子さんにお話を聞きました。

世界で収益を向上させるグローバル人材のタレントマネジメントシステムを構築

伊藤忠商事様のグローバルマネジメント人材の育成方針について教えてください。

鈴木さん：伊藤忠商事は、世界61カ国、90の拠点を持つ総合商社です。繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融といった各分野における輸出・輸入、及び三国間取引を行う他、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しています。社員数は約4000人で、そのうち20％が海外駐在員です。

海外でのビジネスが多いことから、全世界で収益を上げられるような優秀な人材を採用・育成・活用し、適材適所で登用するタレントマネジメントシステムを構築しています。当社は、1999年から育成費用を人的資本への投資と位置付け、社内でエデュケーション＆ディベロップメント費として可視化し、毎年レビューを実施しています。

1999年から人的資本への投資を進めていたのですね。海外駐在者への投資・育成については、どのような取り組みをしていますか。

鈴木さん：新卒入社8年目までには、必ず海外派遣をするという方針を設けています。実際に8年目までの社員のうち約9割が海外派遣を経験しています。

やはり海外で勤務をするには基礎知識が大切です。そこで、海外赴任前研修として、グローバルマインド論や異文化マネジメント、そして海外で組織長となる場合には組織マネジメント講座を提供しています。また、海外赴任中にも学び続けるために、オンラインで研修を受講するなどの仕組みを提供しており、その一つとして海外組織長向けに2022年から360度サーベイとコーチングを導入しています。

国内で導入して評価の高かった360度サーベイとコーチングを、海外組織長向けに展開

今回、従来は国内評定者に提供していた360度サーベイとコーチングを、海外の組織長向けに導入いただきました。もともと国内評定者向けに提供していた背景からお聞かせください。

鈴木さん：総合商社は自社商材を持たないため、人材育成が重要です。その中で、人事評価については、人事制度の根幹と位置付けています。当社ではMBO（目標管理制度）を導入していますが、人事評価がきちんと機能するには、評定者の公正な評価や部下への適切なフィードバックが不可欠です。

そのためには、評定者という立場の方こそ、第三者のプロフェッショナルからマネジメント能力向上の支援をしてもらうことが大事だと考えました。そこで、評定者には定期的な多面観察を実施し、観察結果のフィードバックを通じて振り返りを行い、必要に応じて行動改善・能力向上を図る事を目的としてコーチングの機会を提供してきました。実際にそれらが評定者にとってとても好評だったことから、海外組織長向けにもマネジメント力向上のサポートとして導入することを検討しました。

海外組織長向けに提供するにあたって、どのような課題感をお持ちでしたか？

鈴木さん：当社は海外に90拠点を展開しており、海外駐在員のマネジメント力向上は、海外での収益向上や海外ローカルスタッフの育成、さらには今後の持続的な収益拡大のためにも必要不可欠です。

これまでマネジメント能力向上のための研修を各種用意していましたが、研修で理論が理解できたとしても、実際に一緒に働いている人からどのように見られているか、自分自身のマネジメント能力を自己認知する機会はありませんでした。そのような課題に対して、360度サーベイとコーチングの施策が適しているのではないかと考えました。

360度サーベイとコーチングをセットで導入した狙いについて教えてください。

鈴木さん：360度サーベイの結果を振り返るときに、一人で考えるよりもコーチが伴走しながら一緒に読み解いていくことが有効なのではないかと考えたからです。360度サーベイは自身の行動改善のヒントが得られる一方で、一緒に働いている仲間からの率直なコメントですから、自分ひとりで受け止めるのは辛いかもしれません。

そこで、コーチと一緒に結果を見ることで、問いをもらいながら考えを整理することができると考えました。プロフェッショナルの伴走により、きちんと言語化をして自分自身を健全に振り返り、より今後のマネジメント行動の改善につなげていくことができるはずです。

海外組織長に、この機会をどのように活用してほしいと考えていますか？

鈴木さん：海外での業務は多忙なうえに、期待もプレッシャーも大きく孤独もあるでしょう。それに加えて国内とは異なる環境で、社員の価値観も多様なため、マネジメントの難易度も上がります。その中で、自分ひとりで自身の状況を正しく理解しマネジメント向上に努めることは容易ではありません。

そういうなかで、コーチングを心の拠り所として、ひと呼吸おいて自分自身と向き合う場としてほしいという想いがあります。コーチングの中で、自分自身がマネジメントとしてどんな価値観を持ち、何を大切にしているのか、言語化する機会として活用してもらえたらと思っています。

受講者の88%がパフォーマンス向上を実感。94%が他の海外組織長にも勧めたいと回答

今回、海外組織長向けの支援として、mentoの360度サーベイとコーチングを選定した理由を教えてください。

鈴木さん：最大の理由は、先んじて実施をしていた国内評定者向けへのコーチングの評判が良かったからです。海外組織長向けには、360度サーベイとコーチング、どちらか片方ではなくセットで提供いただけることは重要なポイントでした。そして、海外駐在員もいずれは国内に戻りますから、国内でも海外でも同じコーチングのサービスを導入した方が、社員の体験としても有益だと考えました。

海外拠点では対面が難しいためオンラインでコーチングを提供していただけることも良かったです。そして、360度サーベイを海外拠点で実施するに当たり、設問を単に英訳するだけではなく、正しく伝わるようかなり慎重にやり取りをしていただきました。導入後にも、海外でのシステム障害などトラブルがあったのですが、一つひとつに真摯に対応していただいたことからも、mentoさんにお願いして良かったと思っています。

実際に、どのような対象者にどんなプロセスで展開しましたか？

鈴木さん：海外駐在員として初めて組織長となる人を対象者としました。ただ、全員強制的に受けてもらうのではなく、海外のHRBPと連携して希望者に提案をするようにしました。強制にしない理由としては、この施策は本人の意思が何より重要だからです。

評価につながるものではなく、あくまで自身のマネジメント力向上のための施策なので、対象者自身が変わりたいと思わなければ変われません。そのため、360度サーベイの結果は評価に一切関係しないということを約束したうえで、ご自身のマネジメント力向上のために希望する方に受けてもらっています。

導入いただいた成果や、現場の反響はいかがでしたか。

鈴木さん：毎年20名ほどがコーチングを受けていますが、受講後のフィードバックを見ると、88％が「組織のパフォーマンスが向上した」と回答しています。そして一番嬉しいのが、94％が「他の海外組織長にもお勧めしたい」と答えていることです。プレッシャーが大きい海外赴任の環境で、なかなか自己開示もしにくい中、コーチングを通じて内省の手助けをいただいているからこそ、このようなポジティブなフィードバックがみられるのだと思います。

1度だけではなく、2年連続で実施を希望している人もいます。「やって良かった」という本人の声が、一番重要ですね。海外HRBPから「組織長のマネジメント力向上について、何か手立てはないか」と相談を受けることもあるのですが、評判が良いからこそ本施策を紹介する機会が増えました。

グローバルマネジメント力強化の支援を、継続して推進したい

改めて、海外駐在者にコーチングを導入することはどんな意義があると考えますか？

鈴木さん：海外でなかなか周囲に話しにくいことや、整理されていないことも、コーチングを通じて自分の中にある想いや答えを引き出していただくことができます。それにより、自分の成長にもつながりますし、利害関係のない第三者のプロフェッショナルが伴走してくれるという安心感も芽生えるはずです。頭で理解するだけで終わらず、ちゃんと行動変容して実行していくことができるという意義があると思います。

今後の展望を教えてください

鈴木さん：当社は、国内海外問わず、商いを通じて人々の生活を豊かにするビジネスを生み出し、持続的な社会をつくる人材を育成していきたいと考えています。そのためにも、グローバルマネジメント力の強化や質の担保に対する支援を、引き続き継続して推進していきます。

特に海外組織長のマネジメント能力を向上させることにより、現地の社員も成長し、全社の安定的な利益成長につながるため、今後も支援に力を入れていきたいです。

ありがとうございました！引き続き、360度サーベイとコーチングを通じて、伊藤忠商事様のグローバルマネジメント人材の育成に伴走してまいります。