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この国の総労働熱量をあげるために、 私たちは何ができるのか【後編】
この国の総労働熱量をあげるために、 私たちは何ができるのか【後編】

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これまでmentoは、数千人以上の管理職にコーチングを提供し、彼らが抱える”葛藤”を数多く見てきました。「管理職の罰ゲーム化」とも言われ、疲弊している中間管理職が多数存在するなかで、彼らの消えかけた心に火を灯し、総労働熱量をあげるためには何が必要なのでしょうか。経営学者の宇田川元一さんとmento代表・木村憲仁が語り合いました。前編はこちら。

「適切な応答」が、
個人の熱量を上げていく。

木村:今の話を伺いながら、「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という格言を思い起こしました。というのも、企業変革における支援者は、釣り方よりもさらに手前に、もっと深く考えるべきことがあると感じるからです。それは“魚を釣ろう”という意志の所在。意志があるから魚を釣る方法を模索できるはず。そのプロセスにいかに伴走するか、そして釣れるまで見守れるかが支援者にとって重要なのではないかと。

宇田川:木村さんの話に付け加えるとすると、そこで支援者に必要とされるのは“適切な応答”でしょう。たとえば、シリコンバレーでは事業を失敗した人に対して、周囲は「それは一つの経験になったね。それなら次は何をやりたいの? どういうことがあれば解決できそう?」と語りかけるそうです。要するに、自分の行いに対して、いかなる応答がなされたかによって、自分の行いの意味は初めて決定される。これを社会心理学者のケネス・J・ガーゲンは「協応行為」と呼んでいます。木村さんが私に「おはよう」と言い、私が「うるさい」と返したら、木村さんの行為は本来的な挨拶とはみなせません。そこで私が「おはよう」と返すことによって、木村さんの行為は挨拶になるわけです。そういった構図が見えれば、応答をする人自身も問題を形作る一部であると見えてきます。

木村:適切な応答の意義、すごくしっくり来ます。コーチングにおけるコーチの役割は、相手の話を深掘りして、ひたすら興味を持つことに他なりませんから。そもそもビジネスコミュニケーションにおいて、他人に興味を持ってもらう機会は非常に少ないと感じています。「あなたが進めている仕事には興味あるけれども、あなたの考えには別に興味はない」となりがちなところを一度廃して、まずは全身全霊を尽くしてリアクションしていくことが、コーチが備えるべきスキルであり、プロフェッショナルとしての振る舞いなのだと考えます。適切な応答を受け取ると、相手はどんどん話したくなりますよね。面白いのは、コーチに応答してもらった受講者自身も周りへの接し方や聞き方が変わることです。宇田川先生が著書でも書かれているように、相互的な対話は固定化されたナラティブを動かしていくための刺激にもなるはず。

宇田川:あとは“うまくいっていないことの否定”だけに終始しないのも大切です。ドキュメンタリー映画監督の坂上 香さんが書かれた『プリズンサークル』には、ある刑務所で実践されている、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、社会復帰を促すプログラムが紹介されています。犯罪は悪いことであり、法的に責任を取るべきことは前提ですが、受刑者は人生の苦労が煮詰まった結果として犯罪に至っている。その観点からすると、受刑者の犯罪行為はある意味では人生の成果と呼べる部分もあるわけです。成果と見るからこそ、そこで実は得られたこと、もっと犯罪の手前で改善できたはずのことも見えてくるかもしれない。これは会社や組織においても同様ではないでしょうか。良かったところを見つけて、もっと良くするにはどうするかを考えるためのきっかけは、自分が生きているナラティブだけではなかなか見つからない。そこには他者の助けが必要なんですね。

できることから始める。
仕事の楽しさはそこにある。

木村:より良い対話を起こすためのスタートラインは、どう考えればよいでしょうか?

宇田川:対話といえど1対1よりも、その場に第三者を置くのが効果的です。『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法 2 on 2』にも書きましたが、4人1組で相互に相手の会話を聞いていくと、相手の視点を通じて自分たちを見るという「視点の運動」が起こり、思考も変わっていきます。ある課題をテーブルに置いて、みんなで眺めるような対話が良いのではないかと。これが1 on 1だと議論が煮詰まってしまうことがある。毎月のように同じ話をしたり、問題を押し付けあってしまったり……そこを他人の視点を経由して考えられると、課題を様々な角度から見られますからね。

木村:確かに。コーチングの領域では、それに近しい「外在化」と言われるアプローチを取ることがあります。たとえば、会社や組織に対してどこか冷めた視線を向け、評論的なポジションから発言し続けているような人に対して、「自分の抱えている問題や、感情的に湧いてくる難しい状況に名前をつけてみよう」と促してみる。そうすると、自分の視点を置き換えることにつながり、ナラティブの固着化に気づくことができます。単一的な視点から眺めるのではなく、複眼的に捉えられるようにしていくことが大切なんでしょうね。

宇田川:『組織が変わる』で「反転」という方法に触れているのですが、問題を解決するのではなく、「あなたが何をしたらもっと問題が悪くなりますか? もう一度それを再現するにはどう教えますか?」と尋ねることで、問題と自分の関わり方を見つめることから始めるのもいいでしょう。つまるところ、他人のせいにしてはならない、ということなんですね。家の前にゴミが散らかっていて、すぐさま役所へ電話するのか、一度は自分で片付けてみるのか。やはり、自分ができることから始めて、さらにどうしたらいいのかを一緒に考えるほうがいいと思うんです。自分のできることを見つけて変わっていくこと、それこそ“本来的な仕事の楽しさ”でもあるのではないかなと。

木村:僕らは管理職に特化したビジネスコーチングサービスを提供していますが、まずは個人の心に「自分にできることからこの企業を、この組織を変えていきたい」という信念や情熱を宿してもらい、それが組織のナラティブにも影響を与える状態を目指すべきではないか、と感じます。

宇田川:木村さんが考える個人の熱量は、基本的にはそれぞれにきっと灯っているのですよね。でも、それを消されてしまっているのが現実かもしれません。しかも、消す側はその熱を“悪気なく”消してしまう。熱量の継続は経営イシューの一つだと考えたほうがいいでしょう。

木村:mentoの法人顧客からよく言っていただくのは、これまでも集合型の研修で「べき論」を管理職に伝え続けてきたけれど、目覚ましい効果は得られなかったと。管理職には常に「何かしらのスキルが不足している」 という眼差しが向けられ、足りないものを補い、教え導かないといけないという前提でさまざまなプログラムが組まれています。その前提からmentoは疑っていきたいのです。「そもそもできない」という前提に立つのか、「能力はあるが、発揮できていない」という観点から見るかで、研修一つとっても大きな差があるように感じます。mentoのサービスによって、これまでの会社生活で染み付いたものをアップデートしていくためにも、継続的な関わりと対話、そしてリアクションをシャワーのように浴びてもらうことで、当人の習慣を変えるまで働きかけていきたいですね。

前編はこちら

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