
品質安全性保証本部 表現品質グループ 担当課長 下尾 克也さん
コーチングにより、ロジカルから感情も大切にするように。小林製薬で心理的安全性の高い組織作りを
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mentoのコーチングを利用した方は、どのような変化を感じていらっしゃるのでしょうか。今回は、小林製薬株式会社の下尾さんの事例をお届けします。1on1に苦手意識があったという下尾さんは、社内のコミュニケーションの質を向上させ、一人ひとりが自身のパーパスやWillを明確にできるよう、「新しい1on1プロジェクト」を本部内で他メンバーと共にスタート。まずは自身のパーパス・Willの明確化と自身がコーチングスキルを身に付けるべく、mentoのコーチングを受けることにしました。コーチとの対話のなかで、どのような気付きや成果を得られたのか、お話を伺いました。
社内副業で、従来の1on1をアップデートするプロジェクトを展開

まずは下尾さんのこれまでのキャリアと、現在のお仕事についてお聞かせください。
下尾さん:
1997年に新卒で入社し、最初の3年は新製品開発の研究部門で、洗浄剤の開発に従事しました。その後、製品開発における法律関係の部門をいくつか経験しました。現在は、景品表示法とレピュテーションを背景として、商品のパッケージや各種広告が法律を守っているのか、お客様の期待に沿えているかという観点から、マーケティング部門や研究部門にアドバイスを実施しています。
下尾さんは、社内副業で「新しい1on1プロジェクト」を立ち上げられたそうですね。その背景をお聞かせください。
下尾さん:
実は僕、ずっと1on1に苦手意識があったんです。4年前に課長職に就いていたとき、上司としても部下としても1on1をしていたのですが、1on1は上司と本人以外の視点がありませんし、仕事の文脈でなければ話しにくいと感じていました。本当に自分がやりたいことや、本当に相談したいことは、そういう場だと対話しにくいんです。
ライトって、一方向だけから当たっていると、残りの角度には影ができてしまいます。しかし、ライトを複数方向から当てれば、光が当たる場所も増えますよね。1on1も同じで、本人と上司だけではなく、斜めの関係や社外も含めて、色々な方向から照らすことで、それまでは見えにくかった課題や、成長のきっかけになるようなポイントが見つかるかもしれません。そこで、1on1をアップデートしてマイパーパスを言語化するというテーマで、もう1人のメンバーとチームを組んで「新しい1on1プロジェクト」を立ち上げました。
確かに、1on1は業務相談になってしまって、自分がどうなりたいか、中長期のキャリアの話などはなかなか言い出せないということはよく聞きます。
下尾さん:
会社のパーパスやミッション・ビジョン・バリューは言語化されていますが、自分に置き換えてみるとなかなか明文化されていないことが多いですよね。もしマイパーパスが明確にできれば、仕事もより自分ごと化できるはずです。
キャリアのWill Can Mustでいうと、社歴が浅いときは、まずはCanとMustをゼロから大きくするために働いていると思います。しかし社歴が長くなっていくなかで、「果たしてこれは自分がやりたいことなのか」とWillに対する葛藤を持つこともあるでしょう。それから社内異動もあると、CanとMustがガラリと変わって積み上げてきたものがなくなってしまうようなこともよくあります。そんななかで、やはりキャリアを会社任せにするのではなく、マイパーパスを持って理想のWill Can Mustを自分で描くことが大事なのではないかな、と考えるようになりました。
社員がマイパーパスやWillを持つことで、会社はどう良くなるのでしょうか。
下尾さん:
自分で決めることで、その仕事で自身がどのような成長をするのか、なぜするのかという理解が進むのではないかと思います。僕は、マイパーパスやWillを言語化してから、仕事が楽しいと感じる時間が増えました。「自分はこういうことをやりたくて、今こういう仕事をしている」と胸を張って言える社員が増えれば、組織もイキイキとして、それが中長期での事業の成長にもつながっていくはずです。
自身がコーチングスキルを身に付けるために、コーチングを受けることに

今回、コーチングを受けた理由をお聞かせください。
下尾さん:
1on1の対話をするなかで良い傾聴や共感、フィードバックをするためには、コーチングの基礎がなければできないと感じたからです。それは先ほど話したように、僕自身が上司の立場としてずっとモヤモヤを抱えていたことでした。このままで「新しい1on1プロジェクト」でクロス1on1を実施しても、同じ問題が起こるでしょう。
そしてまた別の側面として、海外ではミドルマネジメント層もコーチングを受けることが当たり前ということも知りました。社外との1on1を検討することも含めて、コーチングに関する知識や経験を身に付けられたらと思いました。周囲に前例が見当たらなかったため、前例がなければ作ればいいじゃないかということで、僕が最初にコーチングを受けることにしたのです。
まずは第三者のコーチからご自身がコーチングを受けることから始めたのですね。
下尾さん:
コーチをしている知人に聞いてみたところ、「コーチングセッションを実際に受けてみるのがいいよ。その経験から、コーチングとはどういうものなのか分かるよ」と言われたからです。コーチングの本を読んでも、「良質のコーチングを受けることが大切だ」と書いてあったことも、後押しになりました。
先ほど話したマイパーパスの言語化のためにも、自分が考えられない角度からコーチに問いを立ててもらうことが大事だと考えました。
感情、見えないハードル――コーチとの対話で気付いたこと

実際にコーチングを受けてみて、どんな気付きがありましたか?
下尾さん:
1回目のセッションから、コーチに「下尾さんは言語チャネルは得意そうだから、それ以外のところから掘り下げてみますか?」と言われたんです。アリストテレスの弁論術で、ロゴス、エトス、パトスというのがあるのですが、僕はロゴス、論理で話すのが得意なタイプです。ですから、信頼のエトス、情熱のパトスは苦手だと思い込んでいました。
それに、世代的に「仕事に感情を出すな」という考えも根強く、感情にはずっと蓋をしていたんです。でも、コーチからは「何を感じていましたか?」と論理ではない非言語の感情や価値観のところに問いを投げていただいたことから、感情をもっと掘り下げてみようと考えるようになりました。
感情を掘り下げることで、どんな気づきがありましたか?
下尾さん:
コーチから「響き」というキーワードを教えてもらいました。これは鳥肌が立つとか、グッとくるというような非言語的な気づきの意味だと理解しています。言語優位で、非言語でのコミュニケーションに苦手意識がある僕にとって、感情スイッチとして「響き」を覚えておくことで、コミュニケーションが少し変わりました。
相手が感情の面で何を大切にしているのかを察知して、それを大切に扱うことで相手との関係を築いていくことに活かしています。より相手を尊重することができるようになると思います。
ほかに、コーチとの対話のなかで、印象的な気づきがあれば教えてください。
下尾さん:
コーチとのセッションの中で、自分の見えないハードルがわかったことです。コーチに対して「それはできない」と言ったとき、「そこにどんなハードルがあるんですか?」と何度か聞かれたことがありました。そのときに、見えないハードルを自分で置いているだけだと気付かされたんです。
具体的には、どのようなシーンで見えないハードルに気付いたのでしょうか。
下尾さん:
コーチングの社内文化醸成に対して、その方法に飛び込めない自分がいました。では、それを止めているのは何かと考えていくと、単に自分で見えないハードルを置いているだけだったのです。自分でセットしたものだとわかると、乗り越えやすくなりました。その後も、何か引っかかった時は「自分で見えないハードルを置いていないか」と内省して、取れるリスクならばトライしてしまえばいいと前向きになれました。
メンバーとの信頼関係の質が変わり、「学習する組織」に向けチームにも変化が

コーチングを受けて、ご自身の変化をどう感じていますか?
下尾さん:
人とのコミュニケーション量が増えました。まずは周りに相談したり、雑談したり、アプローチするようにしています。あとは、とりあえずやってみるようになりました。設定した評価目標以外のところでも、組織開発などやりたいと思ったことは前に進める。ちょっと迷っても、まずはやってみる。そのアクションを積み重ねていくことが大切だと思っています。
周囲からの反応はいかがでしょうか?
下尾さん:
同じグループの人に「僕がコーチングを受けるようになってから、どう変わったと思うか」と聞いてみたところ、「具体的に言葉の問いかけが変わったというよりは、雰囲気が変わった。寄り添ってもらえている感じがする」という声がありました。それを聞いた他のメンバーも、「確かに、以前はロジカルで少し冷たい感じがしたが、最近は感情が豊かになり、体温を感じるようになった」とも話してくれたんです。感情を掘り下げて注意を向けるようになったことで、相手との信頼関係の質が少しずつ変わってきていると思います。
組織としての変化は感じていますか?
下尾さん:
コーチングでもマイパーパスとして言語化したのですが、僕は心理的安全性と仕事の質の双方が高い「学習する組織」を目指しています。実際に読書会やワークショップを実施して、組織に働きかけています。そして、心理的安全性が非常に高くなっていることはサーベイでも表れていて、社内でもトップクラスです。みんなが話しやすく助け合いがしやすい文化を醸成しているからこその変化だと思います。
心理的安全性が高い組織では、「これはダメだと怒られそうだから、言うのを止めよう」ということが減り、ダメ元での発言が増えますよね。そうして発言が増えれば、他の人がさらにアイデアを重ねて、ポテンシャルを最大限発揮できて、良い成果につながりやすいと思います。
社外の人からコーチングを受ける機会を、社内に広めていきたい

社外の第三者からコーチングを受けることには、どのような価値があると思いますか?
下尾さん:
社外のプロコーチ、特にmentoのように質を担保されているコーチとのセッションは、本で読んだりするよりも数段学びが違うと思います。特に、多くのマネージャー層にとってコーチングの経験は、自分のコミュニケーションの殻を破るきっかけになるはずです。
ビジネスパーソンの場合、キャリアが浅いうちは社内にモデルがいます。しかし、いつしか社外の人がモデルになっていく時が来るでしょう。それはコーチングに限らずすべてにおいてですが、社外からの学びを越境で取りに行くかどうかが、大切だと思います。
最後に、今後の下尾さんの目標を教えてください。
下尾さん:
先日、僕自身が受けたコーチングセッションについて、本部内で共有する機会を持ちました。これをきっかけに、社外のプロからコーチングを受ける人材を増やしたいと考えています。
もうひとつ、社内でコーチのコミュニティをつくりたいです。目指すのは、今いる自分の組織をコーチングが進んでいる状態にすることです。社内でネットワークをつくりながら、取り組みや情報交換をするなど、歩みを止めずに行きたいと思います。

mentoカスタマーサクセスの宮城とともに